「次からは誰にも文句を言わせない試合をしよう。レフリーがバーバリアンズを特別な目で見ているなら、そうならないように自分たちがするだけ。どんな判定でも口に出さない、文句は言わない。チームとしてやるしかない。試合に出られないポールのためにもタマリバに勝って日本選手権に行こう」
8日午後9時50分、新千歳空港のロビー。全国クラブ大会準決勝が行われた横浜から戻ったバーバリアンズの辻主将は遠征メンバーを前に決意を語った。
バーバリアンンズに課せられた「罰」の代償は大きかった。手の骨折からこの日、復帰したばかりのフランカー、ポール・マクドナルドが試合中に2度のイエローカードを受けて退場。28日のタマリバとの決勝は出場停止処分になった。あまりに不可解な判定のために。
嫌な話を聞いてしまった。準決勝の試合前、大会本部の片隅でこの日の記事の準備をしていると、傍らで打ち合わせをするレフリーの会話が耳に入ってきた。レフリングの確認を一通り終えると、一人が「ところでバーバリアンズの外国人は?」と切り出した。「前の大会では退場にした」と自慢話でもするようなやりとりもあり、話が弾んだ。
バーバリアンズの外国人選手がこれまで東日本、全国大会で行ってきたプレーのためなのか、それとも、日本でプレーする外国人選手全般に対する先入観なのか。外国人選手イコール、ラフプレー。厳しく裁いてみせる。「お前たちの行為は、どんなささいなことでも許さない」とでもいうように。要注意選手の確認という言葉が当てはまるかもしれないが、決してフェアとは言えない悪意のようなものを感じる会話だった。狙い撃ちの獲物は決まっていた。
キックオフ。それまで春を思わせる温かい日差しを運んでくれた太陽が雲に覆われた。一転して暗くなったグラウンドで始まった。これから起きる悪い出来事を暗示するかのように。だが、バーバリアンズがいきなり集中力を見せた。速い出足で無理にボールをまわそうとする高麗の選手をタックルで次々と追い込み、ゴール前に追い込んだ。そして、わずか2分で樫福がトライを決めて先制。10分にもペナルティーキックからのゴール前ラインアウトからのモールを押し込み、ポールが押さえてトライした。東日本トップクラブリーグでの初対戦でも苦しんだ高麗のタックルと気迫を、集中力で上回った。前半はバーバリアンズが5トライ、高麗が2トライを挙げ、31-14。プレーは激しかったが、互いにラフプレーはなかった。後半も3分に佐々木のトライでバーバリアンズが得点を挙げ、このままバーバリアンズのペースで試合は進むかに見えた。
だが、一つの笛で試合が変わった。後半6分、ラックでバーバリアンズが反則を取られた。何が起きたのか。アグレッシブなプレーで攻守に獅子奮迅の活躍を見せていたポールがレフリーに呼ばれた。ラックでボールを押さえていた高麗の選手の手を踏んだ「ストンピング」。危険なプレーでシンビン、10分間の一時退場となった。ラックで手を使った反則を見逃したうえでの懲罰的な判定。納得のいかない判定に動揺したのか、バーバリアンズはそれまでなかった反則を繰り返し、後退を重ねた。2分後に高麗にあっさりトライを許し、36-21と15点差に迫られた。バーバリアンズは凍り付いたように勢いを失った。息を吹き返した高麗の猛攻が始まった。
この判定を境に、試合は攻守のチームが完全に入れ替わった。高麗のアタックの前にバーバリアンズはゴール前にくぎ付け。何とかしのいで後半16分にポールが復帰して、チームはお落ち着きを取り戻すかに見えたが、そのわずか4分後の後半20分に今度はタッチジャッジからのアピールで、レイトタックルの反則。「危険なプレー」と判定され、2度目のイエローカード。この結果、ポールは退場になった。この試合で一度の警告も受けていなかったにもかかわらず。退場を決めた「危険なプレー」は、観客が抗議や怒りの声を上げることもなく、どんなプレーだったかすら思い出すことができないほどの「危険なプレー」だったのだが。
残り20分、1人少ない状況になったバーバリアンズはいよいよ追い込まれた。プレーは慎重になり、出足はさらに鈍った。1トライ1ゴールを許せば、8点差。流れは一気に高麗に傾く。後半開始直後の大勝ムードは完全に消えた。
決死の形相でゴールに迫る高麗の勢いに、いつゴールを割られてもおかしくないような場面が続いた。だが、バーバリアンズは踏ん張った。体を張って、高麗の突進をタックルで止め、ここ一番のポイントは数で上回った。息詰まる攻防が15分近くも続いた後の後半34分、バーバリアンズは高麗の攻撃の一瞬のすきを突いて、ゴール前から展開し、平塚が自陣から独走してトライ(ゴール)、43-21。高麗の猛攻を止めた。さらに39分にもゴール前のラックから岩本が飛び込みトライ。後半40分間のうち30分間を14人で戦ったバーバリアンズだったが、最後の最後で本来の動きを取り戻してノーサイドを迎えた。
アフターマッチファンクションでは、高麗のプレーイングマネジャーの姜宗卓さんは「殺人タックルでバーバリアンズの壁を越えようと戦ったが、その壁は高かった」と話した。「殺人タックル」に苦しんだバーバリアンズの辻主将は再戦の約束をした。
試合後、レフリーは問題のプレーについて「ラックの場面で、例え球出しを邪魔していても足を出すのでなく、彼はスイープすべきだった。(そうしたプレーが)ニュージーランドで認められるとしても、日本では違う。自信を持って言えます」と関係者に説明した。
バーバリアンズにとっては、不可解な判定のためにひどく後味の悪い試合となってしまった。ただ、試合は正面から互いの選手がぶつかり合う激しい試合だったが、見ていて不快感が残るような荒れた試合ではなかった。判定をめぐる不満からラフプレーの応酬となりがちなゲームを救ったのは、ある意味で試合をコントロールしようとしたレフリーではなく、全力で戦った選手だったと思う。(西野) |